いそべさとしのホームページ


公務員(事務職員・一般行政職員)を目指される方へ
国家公務員・都道府県職員・市町村職員を比較してみました

 私は1998年、まったく違った分野から一般行政の公務員になりました。そのあたりのいきさつをずっとホームページに上げていたのですが、個人情報保護の声がやかましい折、さすがにあんな個人情報の塊のようなページをほって置くのはまずかろうと思い、今般、削除したところです。
 しかしながら、「都道府県職員」や「公務員」というキーワードで検索してこられた方も結構おられたことから、代わりといっては何ですが、これまでの公務員経験から感じた国家公務員・都道府県職員・市町村職員の比較を掲載することとしました。

 ちなみに、私は都道府県庁の職員ですので、どうしても、都道府県職員の見方となります。ただ、国(本省)に1年出向していたこと、県でも観光・イベントという市町村の方々と直接やりとりすることの多い部署を回っていることから、ある程度、行政を広く見れるのかなとは思っています。
 また、いわゆる事務職員であるため、技術職員の世界はよく分かりません。端から見ていると、国・県・市の違いはあまり判別としない印象ですが、実際の所はいろいろとあるのかもしれません。

 間違いや勘違い、認識違い、あるいは質問や感想などありましたら、何なりとご連絡ください。

2008.12.13   いそべさとし(某県事務職員)

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1.根本的な仕事の違い 法令作り、法令解釈、大きな制度を作る
都道府県 具体的な当てはめ、連絡調整、施設づくり
市町村 現場での作業、住民対応(窓口など)

 国においても税務署・陸運局のように窓口業務はありますし、市町村においても自治基本条例の制定など法規事務に携わることもあるのですが、大まかに言えば、国は法令作りやその解釈に力を注ぎ、市町村が実行し、都道府県はその中間という印象です。
 国民健康保険を例にすると、法律や制度を作るのは国、保険証を作り制度運営しているのは市町村、県は運営指導や財政状況の厳しい市町村への補助金の交付、国への報告や照会の取りまとめなどを行っています。また、それぞれが負担金としてお金を出しています。
 都道府県は不必要に感じるかもしれませんが、平成の大合併後でも千以上ある市町村と国とが直接にやりとりをするのは現実的に不可能であること、国に対して市町村の力が小さすぎて上意下達行政になりかねないことなどの問題もあり、現時点においては必要不可欠と思っています。経験則的に見ても、ある程度の規模を持った多くの国において二層性が採用されています。
 また、歴史的経緯や業務の専門性などから、土木分野や農林水産分野では、都道府県が直接実施する部分が比較的大きいと感じています。一方で、健康福祉の分野はもともと都道府県が直接行っていたのですが、(少なくとも実施に関しては)最近は大部分が市町村に移っています。


2.取り組む仕事の範囲の違い 入庁時の省庁が所管する分野を一生専門とする
都道府県 転勤がありさまざまな分野を体験(徐々に色が付く)
市町村 転勤がありさまざまな分野を体験

 これは、国・県・市というよりも、国と地方で最も違うところです。  国の方は、日本政府に採用されるのではなく、あくまでも○○省に採用されます。で、その省庁の所管分野に一生携わることになります。最近では、省庁間の交換人事も頻繁に行われてはいますが、出向先の省庁でも出身省庁(本籍とか言います)に関連の強い部署に行かされるのが普通です。〔厚生労働省の人が防衛省で自衛隊員の健康管理に従事、総務省(旧自治省)の人が国土交通省で空港周辺地域の地域振興担当に従事、など。〕
 一方で地方、都道府県や市町村では、分野をまたがった転勤があり、さまざまな仕事を体験することになります。ただ、都道府県の方が人数も多いためか、年数が経つに連れてなんとなく色が付いてきて、事務職であってもその分野からは大きく動かなくなる方が多い気がします。例えば、健康福祉の分野がメインで、ちょっと環境もやります、といった感じです。ただ、庶務担当(経理・社会保険など)の方はどのような分野の仕事をしていてもあまり関係ないため、部局を自由自在に動き回ったりします。
 小さな市町村では特に若くて優秀な人が体力的に厳しいor制度が難しい部署に配属される傾向が強く、20代にして土木→介護保険→産業振興(観光)と渡り歩いてきた人を知っています。また、昇進した場合には、ポストの数自体が限られているため、課長にして初めての分野、みたいなことも結構あるようです。


3.異動の機会の違い 大変多い。1カ所6ヶ月〜2年ぐらい
都道府県 やや多い。1カ所2年〜4年ぐらい
市町村 他に比べると少ない。1カ所3年〜5年ぐらい

 上記の取り組む仕事の範囲とも密接に関係していると思いますが、異動の機会が国・県・市では全然違います。
 国、特にT種の方は非常に異動する機会が多く、一つのポストに1年間おられない場合が多々あります。海外や他省庁、地方を含め、行くべきポストがたくさんあるとともに、いろんなポストを経験して知識や人脈を培っていくことが重視されているため、どうしても短期間の異動となってしまうようです。
 一方、都道府県はだいたい2〜4年ぐらいで異動される方が多いようです。1年以内で異動となると、何かよほど大きな理由があるのではないかと勘ぐられることは間違いありません。昔は、一つの職場に10年以上勤務している主のような方が所々におられましたが、最近はかなり減ってきている気がします。
 市町村は、分野の入り繰りも著しい代わりに、1カ所あたりの勤続年数が長い気がします。ただ、入ってすぐの若い人は、顔見せか員数あわせか、都道府県よりも異動回数が多かったりはします。また、県に比べると、一カ所に長く居続ける主は少なく見えます。住民と身近すぎるため、腐敗する危険性が高いのかもしれません。


4.昇進の仕方の違い T種(キャリア)・U種・V種(ノンキャリア)で明確に分離
都道府県 入庁時に明確な差はないが、選抜で最後は平から副知事まで
市町村 自治体間の差が大きいが、概して年功序列

 国は入庁時からT種、U種、V種に分かれており、それぞれどこまで出世するかが明確に決まっています。T種はいくら出来が悪くても40代には本省の課長にはなり、U種の人は定年の直前にやっと同期の1人だけが課長になると言われています。V種の人はよく分かりませんが、おそらく本省の課長になることはあり得ないでしょう。 なお、省庁によっては、この仕事をするのはT種の人、この仕事をするのはU種の人と明確に決まっており、席で試験種別が分かってしまいます。プライベートなつきあいも、T種とU種で分かれてしまっています。U種の人は相当不満ではないかと思っていましたが、実際に働いてみると、お互い別の世界の住民といった感じでした。昨今、U種でも優秀な人は出世させようという議論がありますが、秩序や職場の雰囲気を乱しかねないのではないかと心配しています。
 都道府県では、上級・中級・初級という試験区分による出世の差はほとんどありません。私のいる自治体でも、初級職相当で入庁されて副知事まで上り詰めた方が複数いらっしゃいます。ただ、東京都だけは大学卒の中でもT類A・Bという分け方をしており、昇進試験を受けられる年数等に若干の差があるようです。都道府県の場合は、入庁時の試験区分と言うよりは、むしろ入庁後の所属(秘書課・財政課・人事課が御三家といわれます)や昇任試験により差が生じてくる傾向があり、定年前の肩たたきもないため、最終的には、同期の中で副知事から平までいるという状況になります。
 市町村もいろいろですが、そもそも試験区分という発想自体があまりないように見えます。そして、入庁後は、規模の小さなところになればなるほど、年功序列的な昇進をするようです。少なくとも退職時には何らかの長にはしてもらえるようです(部下がいなかったりはしますが…)。ただ、合併により相対的にポストの数が減っており、また若い人の数が少ないことから、かつての年功序列が崩れたり、試験を取り入れたりと、多少状況は変わってきています。
 政令市は、都道府県と市町村の役割を兼ね備え、業務範囲が良くも悪くも広いためか、若いときに昇任試験などを行って、早めに出世する人としない人を選抜する傾向が強いように見えます。確かに、現場タイプの人と政策(本庁)タイプの人を分ける必要があるのかもしれません。
 なお、いくつまで勤められるかですが、国家T種の場合、事務次官になる人以外は早めに肩たたきに会い、外郭団体への天下りを余儀なくされます。U種の人はT種よりは長く働いているものの、徐々に地方支分局や外郭団体に移っていかれます。一方、地方では、定年(60歳)近くまで働かれる方が大部分です。ただ、規模の小さい自治体によっては、5年ぐらい早期に退職することが定例となっているところもあると聞きます。


5.転勤の違い 基本は東京だが、全国どこにでも。海外も多い
都道府県 都道府県内だが、通勤不可能なところも
市町村 基本的には市町村内

 国の場合、基本は東京や地方支分局がある大阪・名古屋・福岡等の大都市になります。とはいえ、T種や本省採用のU種の方は全国どこにでも行くことになりますし、1〜2年海外に行かれる方も非常に多いです。地方採用のU種であっても、関東・近畿・九州などの区分であり、地域によってはとても通勤不可能なところも多いと思います。共稼ぎが増えてきている昨今、単身赴任の方も結構多いようです。
 都道府県は県庁所在地がメインです。ただ、離島県や遠隔地がある地域は、そんなところの経験を2〜3年積まなければならないところもあるようです。ちなみに東京都の小笠原や伊豆七島は若い人に結構人気があるとのこと。独身者であれば、一度は全く違う環境に身を置くことができるというのは大きな魅力です。かく言う私も、雪国経験を2年間させていただき、年10回以上スキーを楽しみました。
 一方、市町村の場合は、転勤により通えないと言うことはほとんどないと思われます。離島の出張所などはあるかもしれませんが、相当レアケースです。
 これが何と関係してくるかというと、官舎(公務員住宅)の数が全然違うのです。国・都道府県はどこもそれなりに官舎が充実しており、汚くて狭いものの、相当お得な金額で入居することができます。一方で、市町村はほとんど官舎がないのが一般的です。大阪府は行革の一環として全廃したそうですが、これも大阪府は面積が狭いうえに公共交通機関が発達しており、ほぼ全域通勤可能と言うことが大きく影響していると思います。
 最近は、市町村でも災害待機のための官舎を保有するところがありますが、入居にはそれなりの覚悟も必要であり、普通の官舎とはちょっと違います。公務員は官舎に安く入れると思っていても、市町村の場合はあまりそういうことはなかったりするので、注意が必要です。


6.男女の比率の違い T種や本庁U種は少ないが、管理職になる比率は一緒
都道府県 一般職員は多いが、管理職はまだまだ
市町村 地域格差が大きいが、概ね男女均等

 国の場合、本省に勤務するT種やU種の方で女性はまだまだ少ないと思います。毎日タクシー帰宅が通例化する職場であり、まともな家庭生活は望めそうにないため、仕方ないとも言えます。一方で、その中でがんばっておられる女性の方は、能力に申し分のない方が多く、国は能力さえあれば出世していく組織ですから、管理職になる比率については大きな違いがないように見えます。女性の局長、事務次官は昔からいますが、たたき上げの女性で副知事や副市長になった方は、寡聞にして私は知りません。
 都道府県・市町村は、地域によってものすごい差がある気がします。都市部では概して女性比率が高く、田舎になればなるほど低い気がします。さらに、都市部の自治体ほど管理職の女性が多く、田舎になると女性の管理職はあまり見かけません。田舎の自治体の場合、管理職に地域の顔役的役割が期待されている部分があるからかな、とも思います。
 更に言うと、概して市町村の方が女性比率が高く、都道府県は低めのイメージがあります。一番遅れているのは田舎の県庁でしょうか。「県庁の星」のごとく、県庁職員に一種のエリート感があるからかもしれません。


7.拘束時間の違い 本省なら朝は遅いが、夜はタクシー帰宅がデフォルト
都道府県 人それぞれだが、概ね勤務時間内
市町村 通常は勤務時間外だが、夜間当直やイベント出務も

 霞ヶ関の官僚のモーレツ仕事ぶりはかなり有名になりましたが、確かに、タクシー帰宅がデフォルトの省庁が多いとは思います。その大きな理由としては、そもそも行革で極限まで人員が減らされていることに加え、国会対応が年がら年中あること、情報が集まりすぎてその取捨選択が大変なこと、極端なまでに精緻・精密な法令関係作業があることなどがあげられると思います。更に、それに耐えられることが、出世の一つのポイントとなってるようにも感じられました。
 都道府県・市町村の場合は、就く仕事によって大きく左右されます。財政課や人事課は季節によってはほぼ徹夜状態になりますし、福祉関係など年中忙しいところもあります。税金関係では夜間の特別徴収などもあります。ですが、たいていの職場は基本的には定時に帰れるし、そうでなくても7時8時ぐらいというのが普通かと思います。
 ところで、私が知る限り一般行政職の公務員で一番暇なのは、都道府県の裁定・あっせん関係の担当者で案件がない場合かと思います。そもそも出張や会議はほとんど想定されず、勉強以外、本当になんにもやることがないそうです。とはいえ、こういう担当は法律上必置であることも多く、いざ案件が出てくれば拘束時間は膨大なものとなるので、致し方ないところではあります。
 一方、市町村の職員の方は、仕事自体は定時で終わるものの、休日などに地域でのイベントにかり出されることが多いイメージがあります。特に、小さな町村では、秋口など毎週毎週イベントで大変という話も聞きました。さらに、市町村役場は死亡届や婚姻届の関係で必ず当直職員を置かねばならず、小さな役場だと数少ない若手男性職員で回すため、それも大変と聞いています。さすがに女性職員一人を夜間の役場に置くわけにもいかず、かといって男女ペアも違った意味で問題なのでしょう…。
 ちなみに、選挙事務も拘束時間が長く大変なようですが、行政が行うイベントの最たるもので、最後に結果が出るという点でカタストロフィ性もあり、昔は気前よく残業代だの差し入れだのもあったそうで、市町村職員の方に選挙の話を振ると、皆いきいきと思い出を語ってくださいます。


※現役公務員の方、他にも何かありましたら教えてくださいね。



いろいろと書きましたが、
「役人は 行く先々の 水に合わねば」
どのような環境に置かれても、その職場に応じた仕事をするのが公務員だと、
短い10年程度の経験ではありますが、考えています。

ご参考まで。


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