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過去の「ほぼ演劇日記」 保管庫(2015年4月〜6月)


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東京在住後、初の芝居が紅テント
(劇団唐組「透明人間」感想)

・神社の境内に紅テントを張って公演する、元祖アングラ小劇場。徐々に暮れていく境内で観客が一列に並び、テントに吸い込まれていくこと自体が大きな舞台美術であり舞台環境なのかなと。作品は難解ながらも面白いところや心を打つところがあり、そこはさすが。
・やはり気になったのは焼鳥屋のももちゃん。清楚なたたずまいや濡れたシミーズ姿が性的な美を描き出す反面、背中に奇妙な形で入れられたコブや拙い喋りがアンバランスさを強調する。美しくも、汚くもある水。さらさらしていながら、実は粘性の高い液体である水。そんな二面性を象徴しているのかなと。
・全体を通してのテーマは難解なものの、個々のシーンは笑えたり、緊迫感を味わえたり。アングラというよりも、小劇場芝居の原点を見た気も。音響の入れ方や照明の変え方はかなり独特。舞台装置(屋台崩し)はやはりテンションが上がりますし、それを使ったラストシーンもなかなかにきれいでした。
・観客層は結構高めながらも、いかにも演劇学んでますというような若い男の子・女の子がいたり、逆に着物を着てきたそこそこの年齢の女性がいたりと、なかなかバラエティに富んでおり、そこも東京であり、唐組なのかなと。テント芝居自体珍しく、話のネタ的にも行けてよかったです!(2015/5/10観劇)

踊り場、か、聖地、か。
(イキウメ「聖地X」感想)

・5年前に見た「プランクトンの踊り場」を改訂。より分かりやすく、ギャグがレベルアップした印象。逆に尖った感は少し減ってしまったかも。「聖地」か「踊り場」かって、結構大きかったのかなとか。でも、安定のストーリーに役者さんで十分楽しめました。
・お話はどこか推理小説仕立てで、全く時間を感じさせない。そして、役者さんも相変わらずすごく、特に安井順平氏のけれんみのある演技は当たり役。昔から好きな大窪人衛氏もどうどうの公演。女優陣もみな清楚かつキャラ立ちしており、本当に綺羅星のごとくの役者陣だなあと、いまさらながら感心。
・毎度ながら舞台美術が秀逸。ただ、象徴的に照らされるシンボル(石)は賛否両論かも。照明は舞台美術との連携が素晴らしい。そして、シアタートラムの特性なのかもしれないが、選曲・音響が非常に良く、心にずどんと入ってきた。スタッフワークのレベルの高さと統一感もイキウメのすごいところ。
・前回よりも前向きに終わった感がするのは、5年間の自分の変化か作品の変化か。とはいえ、相変わらず考えさせるエピソードやセリフが多いのはさすが哲学科出身の前川知大氏で、それをエンターテイメントの域まで運びこむ技も確か。次回作では中嶋朋子さんが出演されるそうでそれも楽しみなのです。(2015/5/14観劇)

ひとよひとよが、ひととひととのつながりをつくり。
(KAKUTA「ひとよ」感想)

・ある人にとって大きな意味を持つ一夜は、他の人にはそうでもなくて。でもそんな一夜を積み重ねることで人生や家族の絆は積み重ねられていくわけで。現実の冷たさを描きつつも、人への視線がどこか暖かい桑原裕子さんの代表作が堪能できた。
・話の中心は、夫の殺人事件を起こし、15年後に戻ってきた母親と3人の息子・娘のやりとり。そこに離婚で子どもと離れ離れになった中年男性やら、わけありげな外国人風日本人(?)が絡んできて…。ある意味、桑原さんらしい分かりやすい話といえば分かりやすい話である。
・ただ、その分かりやすさというのは、どこか深い深淵を覗いた後に、さらに分かりやすい世界に戻ってきたようなところが見え隠れする。それをきっちりと役者が理解して演じているからこそ、わざとらしいストーリーでもわざとらしさがなく、しっくりと心に落ちるのだろう。
・主演の岡まゆみさんは流石だったが、個人的にはどこか疲れた中年女性を演じた磯西真喜さんのありそうでなさそうな雰囲気がなかなか良かった。また、長兄のお嫁さん役をやった異議田夏葉さんの極端な振れ幅ある演技は楽しい。脇役のレベルの高さはさすが東京といったところ。
・「ひとよ」というタイトルからも不可欠な照明は、本当に演技をしているようで素敵。特に朝の照明は心が躍った。舞台美術は簡素な中にも様々な要素をうまく詰め込んでいたが、「外」が舞台手前(あえて上手側のみであったが)と奥にあるのはちょっと分かりにくかった気も。
・ザ・スズナリに仕事終わりでも間に合ってしまうというのは本当にありがたい環境だなあと思いつつ、KAKUTAは少なくともこの2年間は追いかけたいと思っています。これからどのような世界を見せてくれるのか、さらに楽しみなのです!(2015/5/25観劇)

流れ落ちる砂、時間、歴史、そして人間と身体。
(山海塾「歴史いぜんの記憶―うむすな」感想)

・言わずと知れた舞踏の大御所団体だが、私は初見。舞踏自体決してなじみ深いわけではないが、心にしっとりと落ちてきたのは流石の技か。「人間」の誕生から、自然との闘い、そして社会の進化と、大きな歴史絵巻を見ているようであった。
・舞台奥中央にずっと流れ落ちる砂と、上下にある砂時計が、決して戻ることのない時の流れをある意味冷酷に、そして美しく表現。幻想的な照明と、白塗りの肉体とも相まって、様式美的な美を感じさせた。トータルの美的センスがものすごく、その洗練さもさすがと言わざるを得ない。
・個人的に気になったのは、中央で落ちてくる砂で、はじめのころは下手側から上手側に少したなびいていたのが、徐々にまっすぐ落ちるようになっていた。たまたまなのか、あるいはそこまで計算しているのか分からないが、もし計算していたのであればそれはすごいなあと。
・一方、舞踏素人だから思うのかもしれないが、作品や作品世界自体がかなり音楽に頼っている気もした。もちろんトータルな総合芸術としてはありなのだが、舞踏はもっと身体を見せるものかなという先入観があっただけに多少意外。この作品や山海塾だけなのかもしれないが…。
・少なくとも演劇をある程度見ている人にとっては、山海塾は十分に楽しめるというのが率直な感想。特にその美的センスに浸るのは本当に楽しい。食わず嫌いでなくていろいろと行かなくてはならないなとおもった、初世田谷パブリックシアターでした。(2015/5/31観劇)

風は確かに、まだ吹いている
(演劇集団キャラメルボックス「カレッジ・オブ・ザ・ウィンド」感想)

・キャラメルボックス初期の代表作で、多少の粗削り感はあるものの、さすがの疾走感。誰も敵にしないところや登場人物によるナレーション的セリフの多用、最後のシーンの独特の照明など、キャラメルらしさを堪能。
・交通事故で一人残された少女と、バラバラだったその家族。死んだはずの家族が幽霊となって繰り広げるドタバタの中で、叔父が起こした事件が重なって…という物語。荒唐無稽さや説明不足はあるものの、面白さは流石といったところ。携帯がなく、ラジオがあるというのも時代を感じさせる。
・主人公・ほしみ役を原田樹里さんが熱演。あれぐらいストレートな方がキャラメルらしい作品の主役にはいいのかも。素敵なお姉さん・あやめ役の渡邊安里さんは素直に素敵。劇団員ではない西牟田恵さんの演技と存在感が、座組のなかで非常にいいアクセントになっていた。
・舞台美術は外とも中とも、墓場とも取れるようなもの。ちょっと凝り過ぎ感もあったが、それはそれで一つの世界観をきれいに表現していた気がする。照明は安定のキャラメル風。音響はスピーカー前だったので流石にきつかった。隣の人は大きな音が出るたびに耳をふさいでいたほど。
・家族をテーマにしていてそうで、実は個人(ほしみ)がいかに前向きに生きていくかが主題なのが、いかにも1990年代だな〜とも感じたり。こういうストレートな作品、今出てきたら受けないかもしれないけれど、でも人間の抱える問題って時代でそんなに変わらないんですよね。
・私の初キャラメルボックスは18年前のサンシャイン劇場で、この劇場では18年ぶりの観劇。そういう意味でも感慨深かったり。平日の夜だったからか、かなり空きが目立ったのは残念。エンターテイメントとしても十分面白いし、考えるヒントもいろいろとくれるので、ぜひ見に行ってほしいです!(2015/6/2観劇)

この宇宙の片隅に。
(ままごと「わが星」感想)

・劇団にとっては再再演。私は再演の伊丹に続いて2回目。ワイルダー「わが街」を下敷きに、地球(=ちーちゃん)の物語を、ラップに乗せて。DVDで何度も見たのでセリフもほぼ知っているけど、それでもなお感動させられる何かがある。やはり名作だなあと。
・基本的な流れはほとんど変わっていないけれど、照明がカラフルになった(これはこの間の照明機材の進化のせいかも)とラップとの合わせがさらに厳密になった(たとえば、お父さんとお母さんの「わが星」シーンなど)で、全体的に洗練さがアップした印象。粗削り感や勢いは減ったのかも。
・あと、最後のシーンが若干引き伸ばされたのもあって、ボーイミーツガール色が強くなった印象も。もちろん嫌味ではないのだけれど、「ずっと見ていてくれたんだ」をあんまりちーちゃん自身が感じちゃうと、いい意味でのイノセントさが失われてしまうというか…単なるマニアの感慨かもしれませんが。
・なんとなく楽しく美しい物語という印象だったけど、実際に生で再度見てみると、意外と「孤独感」も強く感じさせる作品だったんだなあと。月ちゃんのアポロエピソードもそうだし。それで「ねえ…手をつないでもいい」というのが感動を誘うわけで。そのあたりもポストゼロ年なのかなとか。
・千秋楽ということもあってか、途中からは泣き続ける女の子も多く、ちょっとつられてしまったり。やはりままごとの代表作であり、ゼロ年世代演劇の金字塔の一つであることは間違いないなと。それを初演の場所、三鷹星のホールで見れたのは幸せでした。まあ神戸に居ても来る予定でしたが(^_^;)
・そして「わが星」再々々演のときは、ぜひ阪神・淡路大震災の被災地・伊丹から始まって、最後は幻となった(リーディングは行ったけど)東日本大震災の被災地・いわきで終わってほしいなあと。そんなこともかすかに期待しつつ、余韻に浸りながら家に戻ったのでした。(2015/6/14観劇)

生きていく、そのところどころに楽園が。
(南河内万歳一座「楽園」感想)

・複雑で不可解で迷路のような時代であっても、どのような喪失感や不安があっても、結局は前に進んでいく中にしか「楽園」はない。ドタバタしていて、若干わかりにくくて、でもメッセージはストレートで。南河内らしい名作品であったと思う。
・生と死の世界に行ったり来たりしているように見えながら、結局死者の世界にいるのは内藤さんが演じる役だけだったようで(雑草の生えた自転車をもって移動するラストシーンは秀逸)。結局、死(≠死者)の価値なり意味なりというのは、生きている人が決めていくんだなあとか。
・南河内の客演常連の岡部尚子さんが相変わらずのインパクト。あと、木村基秀さんの抑え気味な演技がなかなか素敵。それぞれが自分のポジションをしっかり主張しつつ、全体としてちゃんと芝居が出来上がるのが内藤流なのかなとか。今回は役者・内藤裕敬もなかなかでした。
・ちょうちんを多用した舞台美術は、やはり生と死をイメージしているのかなとか。一幕ものであれだけの世界を描き切るのは流石。シーンに合わせて割と細かく明かりの変化はあり、特に月明かりは非常にきれいでした。
・関東で大阪のお芝居が見れるのは嬉しいし、平日の夜でも客席満席というのもさすが。今回、知っている人の出演がなかったのは残念でしたが、そこはまたの機会を楽しみにしつつ。スズナリ&南河内、独特の世界観を存分に楽しませていただいた、東京初日でした。(2015/6/17観劇)

引き継がれていく思いと感動と
(劇団太陽マジック「ゆらり2015」感想)

・母娘3代をつなぐオムニバスの3つの物語。最初に散々笑わせて、次に朗読劇でしっかりと感動させて、最後にストーリーと登場人物たちをしっかりと結ぶ。太陽マジックの代表作であり、西条みつとし氏の持ち味が生かされた名作。
・緩急のつけ方は独特で、ある意味テレビ風、あるいは吉本風なのかなとも思ったり。前回は第2部(らストの手紙)が好きだったが、今回はどちらかといえば第3部(りモコンのくれた時間)が心に残ったかなと。照明とも相まって、ラストの方の流れがとてもきれいでした。
・一方で、「再演」の意味というのも考えてみたり。若干謎解き風のところもあるので、やはり前回ほどのインパクトはなかったんですよね。あと、太陽マジックといえばの諏訪井モニカさんがいなかったのも多少寂しかったり。役者の劇団員はおひとり(細田香奈さん)なので仕方ないんですけどね…。
・とはいえ、やはり初めての人にとっては衝撃的ですし、2回目の自分も涙腺がゆるくなるシーンも多々。いい作品だからそのままに(違ったメンバーで)上演するというのも、商業的には十分あるわけで。ただ、まだ8回公演ということでファンとしてはいろんなチャレンジも見たいなと。
・お気に入り劇団の一つ「太陽マジック」。おそらく関西に来てくれることはないと思うので、東京にいる間にできるだけ見ておきたいなあとは思っているのです。次回作は11月とのことで、お仕事予定と割とどんかぶりですが、何とか行きたいと思います!(2015/6/19観劇)



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