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過去の「ほぼ演劇日記」 保管庫(2014年7月〜9月)


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2時間弱の中で縮まる距離
(空晴「こっからの、距離」感想)

・いつもほろっとさせる好作品を届けてくれる「空晴」。いつもは小さい劇場で短い作品が多いものの、今回はインディペンデント2ndという比較的大きな劇場で、若干長めの作品。軽やかさは多少失われたものの、それはそれで十分ありの作品になっていた。
・「おばあちゃん」をめぐる親戚やら近所の兄弟やら詐欺師(っぽい人)やらが織りなすドタバタ劇。基本的には「取り違え」が主題の、言ってしまえば良くある単純な話なのだが、そこに謎解き要素も多少組み込んできて、岡部氏一流のストリーテーリングのうまさであまり飽きさせない。
・ドタバタといろんな話が語られている中で、少しずつ人物間お互い距離が縮まってくるのが観客にも伝わってくる。まさに2時間弱の中で、関係性の凝縮を見事に、毎公演新鮮に提示する。これも岡部氏と役者たちが持つ技なのだろうなと感じた。
・そして、所々に印象的なシーンを組み込んでくるのも「空晴」流(ランニングシアターダッシュの血かもしれないけど)。特に、「おばあちゃん」であることを強く暗示する小椋あずきさんのシーンが中間部と最後に出てくるのだが、これが照明と相まってすごく素敵な空気を作っていた。
・役者さんは相変わらずそれぞれに面白いのだが、初期メンバーが芸達者なのは当然のことながら、途中から入団された古谷ちささんの演技がとても素敵。決して華があるわけではないのだけれど、丁寧にきっちりと演じているのが感じられて好感。
・今回は若干いつもの「空晴」スタイルとは違うところがあったものの、それはそれで結局最後は「空晴」テイストで楽しませていただきました。とはいえ、またあのこじんまりとした距離感の「空晴」もみたかったりもするのです。
(2014/7/20観劇)

価値観の衝突、そして続けることの意味。
(隕石少年トースター「君が生まれた狂気の村」感想)

・可愛らしいチラシと知っている人がスタッフさんをやっていたのでつい申込み。10年間活動してきた劇団の休止前公演だったとのこと。そのためか、異なる価値観同志の衝突や、継続することの意味やらを、独特のブラックユーモアで訴えていた。
・結婚するにあたり「象に踏まれないといけない」という男のお話。残念ながら最後まで生身の象は出てこなかったので(Cafe Slow Osakaには入らなかった模様)、やはり「象」というのは何らかの象徴なのだろう。大きく強くて鈍重で、否定することや抗うことのできない何か。
・昔であれば「誰もが通ってきた道だから」とか「そうするのが当たり前だから」で通り過ぎてきた道が、決してそうではない現代。それでも大きなものに飲み込まれざるを得ないのが実際の現代。やりきれなさをちりばめながら、それでも登場人物一人一人に投げかけられる視線はどこか温かい。
・役者としては、やはり悔しいかな(というのも変だけど)劇団赤鬼の田川徳子さんがインパクト大。舞台に上がった時の存在感が格別。そして、引っ掻き回す嫌らしい役のネコ・ザ・メタボさん(ステージタイガー)の嫌らしい演技も、みていて本気でイライラするほどに好演だった。
・伝統行事を続ける派・続けない派の争いを、最後は「その人への信頼」で決めようとするストーリー。どこか物足りなさや間違ってる感がありながらも、最終的にはそこしかないんだろうなとも思ってみたり。決して派手さはないけれど、いろんな捉え方ができる好作品でした。
(2014/8/3観劇)

短い作品を短く勝負してきた潔さ。
(simple×sample”s番外サンプル公演「"This Night!"」感想)

・「過剰な演出をせずドラマのリアリティを追求し表現する」という同団体のスタイルは変えずに、「番外サンプル公演」としてオリジナル作品でチャレンジ。その挑戦は半分は成功し、半分は今後に課題を残した。
・良かった点としては、特段大きな出来事や派手なBGMを入れることなく、淡々と役者の演技だけで話を紡いで行き、それがちゃんと話として面白くできていたこと。そこは演出と役者にしっかりと力があるからだろなあと思う。また、照明のプランがなかなか楽しく、空気感をうまく作り出していた。
・一方、象徴的意味合いも低いオープニングのダンスシーンや説明的セリフ(最後のも含めて)が目についた。不安なのはわかるが、ここは役者や演出や観客を信じて、もっともっと削ぎ落とした形で勝負してほしかったなと。また、オペの問題か演出の問題かわからないが、音響・照明が若干目立ち過ぎ感も。
・そのあたりの批判も覚悟の上で「番外サンプル公演」と銘打ったのだとは思うが、演劇というのは役者・スタッフ・観客を含め多くの人が貴重な時間を費やして成り立つものであり、少なくとも作・演出としては「今の時点での自分の最高傑作はこれだ!」と思えるものだけを出してきてほしいなとも思う。
・短い作品をあえて短いままで勝負してきた潔さもあり、役者のセンス・技能や団体の方向性は決して嫌いではないので、だからこそ演出手法の更なる精進やセリフ一つ一つの練りこみをさらに期待したいところ。冬の第2回本公演、何をどう見せてくれるのか、期待しています。
(2014/8/13観劇)

羅針盤が指し示す「自由」に向かって。
(劇団ショウダウン公演「マナナン・マクリルの羅針盤」感想)

・壮大な世界観を繊細かつ大胆に、たった一人の女性が演じ切る。舞台上に時代が、海が広がり、メッセージがダイレクトに客席に、今の時代に投げかけられる。気が付いたら右目からだけ涙が出ていたのはなぜだろう。
・大航海時代の海賊たちの話であり、それにふさわしく「大冒険活劇」的な語りもあり、それはそれで非常に引き込まれるのだが、やはり「おもり役だった黒人少女」の話が一番心に残る。それが彼の「自由」を求める戦い(海軍に対して、あるいは自分の仲間に対して)につながっているのだろうなと。
・「自由」というのは、一見簡単そうで本当に難しい。自由気ままにに生きているように見える海賊たちにも不自由なことがいっぱいある(そう考えたんだろうなというセリフもあった)。しかし、人種や国籍によって差別され、自分で自分の生き方を決められれない状況は間違いなく「自由」ではない。
・自分で自分の生き方を決められる「自由」を求めるベラミーの戦いは多分今も続いているのだろう。到達点を示す海図と、自身の位置を知る六分儀が消えてしまっても、羅針盤が示す「自由」という方向は、びくともしていない。300年前も、そして今も。
・林遊眠氏は個人的にはあまり好きな役者さんのタイプではなかったものの、この作品を見て考えが変わった。しっかりとした自分らしさを常に保ちながら、それでいて個々の役柄にしっかりと入り込んでいる姿は見事としか言いようがない。話の素晴らしさもあるが、彼女の「技」も十分に見ごたえがあった。
・TEAM marumushiさんの音楽も印象的で、特に「遠い記憶」のフレーズは耳に残る。良い作品には必ず表方のスタッフさんも含め心地よい一体感があるのだが、それが明らかにあった。東京公演で関西小劇場の底力がどこまで評価されるかにも期待。素敵な作品をありがとうございました。
(2014/8/16観劇)

軽めに見せつつ、しっかりとしたショートショート
(四次元STAGE「よんすて納涼演劇祭」感想)

・ショートショートということで、落語1本、2人芝居1本、1人芝居3本の軽めの公演。短い芝居はオカピー氏の本領発揮ということで、どれもよくできており、愉快で楽しい時間を過ごさせていただいた。大した宣伝をせずにあの動員力も立派。
・まっそ氏の落語はトップバッターでありながら、枕の観客の掴みが見事。決して声優的ではない、純落語風の語りというのも好印象。オカピー、古さん、ホリベエはそれぞれに自分の持ち味を発揮し、芸達者なところを見せていた。多少、台本に「蛇足」的な部分が見え隠れしたのはご愛嬌。
・多少異質と感じたのはちゃんこ&つるにゃん 『心もヨシ子なら』。かなり唐突な設定だが、それを腑に落とさせる演技と物言いがきちんと有り、その上での自由奔放さが気持ち良かった。抒情性も感じさせるストーリーとセリフはこれまでのよんすてには見えなかったもので、いい相乗効果を生んでいる。
・司会者もぐだぐだと言ってしまえばそうなのだが、それはそれでゆるーい感じがこの公演(イベント)にはとてもあっていた気がする。キャラを最大限に生かした司会ともいえる。舞台・照明・音響も簡素ながらしっかりと作られており、このあたりはさすが、技術学校OBの力だなあとか。
・軽めに見せつつしっかりとした作品を並べており、よんすて&オカピーのショートショート力を改めて実感。このクオリティを長編に繋げていくには+αがおそらく必要で、それが『ヨシ子』なのかなとか。まあ、難しいことは抜きにして、楽しい時間でした。ありがとうございました&お疲れ様でした!
(2014/8/20観劇)

撓められた人生は、それぞれに美しい。
(2655「撓める(ためる)」観劇感想)

・ピッコロ演劇学校本科・研究科26期生の劇団。他の劇団で本格的に活躍されている方も、年に一度のお芝居の方も、同期ということでお互いの手の内を知り尽くした中で、精緻に丁寧に作られるお芝居。今回もきっちりと、そして少し前向きな佳品が提示された。
・同期の劇団というとどうしても甘くなりがちだが、ある意味、同期ならではの厳しさがあるのも2655の特徴。セリフや所作、セリフの間、それらが作り出す空気感に甘さがない。若干なさすぎる気がしなくもないが、1時間あまりの作品であれば、一気に走ってしまうのもまた一つの手法だろう。
・生け花で植物を曲げる事を示す「撓める(ためる)」という言葉で、人生が形作られていくことを比喩的に表現。もとの流れに完全に反することはできない。でも人との交わりや自分の思いの中で人生は撓められていく。それは曲がりくねっていようが一見素直であろうが美しいものなのかもしれない。
・延々と続く日常の残酷さや前向きな諦観、それに向けたどこか優しい視線…というのが、作・演出の十田裕加氏の真骨頂なのだが、今回はまさにその集大成ともいえる作品であった。一方、これまでの作品に比べるとエンターテイメント性もやや高く、多くの人が楽しめる作品に仕上がっていた気もする。
・役者としては、やはり島愛さん・河部文さんの生け花シーンが中核かなと。逆にあまり間のない新聞社のシーンやサイン会行列のシーンでも、ちゃんと十田演出になっていたのはある意味すごいなあと。決して役を作るのではなく役になっているのは、3年というあるのであろう。
・スタッフワークでは透明感のある照明が主題と空気感を演出。照明家・藤本悠美氏の毎年レベルアップする照明を楽しめるのも2655の楽しみの一つ。また、山田淳二氏の舞台装置(特にリバーシブルのパネル)も照明や衣裳(特に着物)とのコラボが素敵。意外と使いにくい白色が見事に決まっていた。
・今年は当日のお手伝いしかできなかったが、スタッフを含めての関係もよく、楽しい現場であった。その空気が劇場や劇団、最終的には作品に反映されるのかなと改めて感じたり。来年どうなるかわからないものの、まだまだ続けてほしい劇団であり作品だなあと思っています。お疲れ様でした。
(2014/8/21観劇)



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